喜楽庵

蕎麦屋みたいな

竹藪の中にある茅葺き屋根の小屋

 

シャレた庭に

ランダムだけど旋律がある配置された石

それぞれが意思を持って奏でるメッセージ

毎日違うオーケストラによって

繰り返し公演されるコンチェルト

 

ときは令和

万葉集に出てくる自然と一体化した世界観に

西洋からの絹雲がシルクの掛け布団のように

軽く重なり

チャンプル文化が醸成される

 

白髪のマダムがニコニコしながら

季節が初冬に進んだスタンプラリー

色とりどりの枯れ落ち葉を

順次に掃き清めている

 

小屋の小さなエントツから

白い煙がまっすぐ上に

矢印みたいにまっすぐに

天に登って旅に出る

 

自家製味噌の樽から飛び出した

味噌の粒子が井戸から汲みたての柔らかな軟水に溶けていく

まな板の上で踊り出す包丁

 

匠の技で研ぎ澄まされた表面に映し出される

たくさんの役者たち

 

ん? 何か焦げ臭い

振り返ってみると

白髪マダムが掃き集めた落ち葉に火をつけ

焼き芋を作っているようだ

 

炎が下火になってきたころ

金属バサミで掴まれたさつまいも

熱々のを手の上で

右へ左へ飛び回る

 

ようやく掴めるようになったいもを

パクっと割ると

黄金色に輝く光が湧いてくる

眩しく光る光線に一瞬目が閉じる

 

こんな原風景がどれだけ残っているだろうか

 

草野球で竹藪に打ち込まれたホームランボー

あのとき見つからなかったボールが

時空を超えて、ビルの隙間に落ちていないだろうか

 

夕焼け小焼けで日が暮れて

山のお寺の鐘が鳴り響く

 

ふと耳を澄ましてみよう

あの日 あの時 あの光景が

蘇ってくるだろう

 

あの時の喜びは今の自分を支えている

楽しい思い出は色褪せない

 

喜楽に生きるファストパス

配っていきたいなぁ

 

だけど

そのパスの裏には哀しみと怒りが書いてある

 

人は悲しみが多いほど

人には優しくできるのだから